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努力報われぬ介護 社会保障こそ民の力

2025年度に必要な介護職員は約253万人。38万人が不足する計算

 排水速度が通常の2倍の浴槽、利用者のリハビリ記録を一括管理するナビゲーションシステム。介護する人の負担軽減と、介護される人の快適さを高める先端機器がそろう。パナソニックエイジフリー(大阪府門真市)がさいたま市に開いたデイサービス施設だ。大手メーカーならではの技術力でサービス向上に挑む。

 「人手と時間が必要な業務を効率化し、高齢者に手厚く寄り添う」。施設の女性職員は胸を張る。同社は職員1人のリモコン操作でベッドを車いすに変え、1分ほどで寝たきりの人を移せる体制も整えた。高齢者の転倒率の低さなど安全面もアピールする。

 厚生労働省によると、2025年度に必要な介護職員は約253万人。対する供給見込みは約215万人で、38万人が不足する計算だ。介護ロボットの活用など生産性向上は担い手不足解消の切り札となる。

 だが、介護は企業の創意工夫を十分生かせる仕組みになっていない。どのような状態の人に、どんなサービスを提供したかで介護の報酬は決まる。人員配置の基準も厳しく、デイサービスだと原則5人の利用者に職員1人が必要。ロボットも使い効率的にサービスを提供しても、人手は減らせない。エイジフリー社も拡大戦略の修正を迫られた。がんじがらめの決まりが企業を縛る。

 「筋トレを増やしましょう」。エムダブルエス日高(群馬県高崎市)のデイサービス施設。リハビリに励む40代男性に職員が声をかけ、専用メニューで後押しする。ただ健康体に近づけば、経営にはマイナスだ。要介護度が3から2になると、月の費用は約15万円から10万円程度に減り、事業者の収入も減る。北嶋史誉社長は「成果に報いる制度にしないと健康な高齢者は増えない」と嘆く。

 介護は工夫次第で生産性を高める余地が大きい。通所介護の利益率(税引き前)は月の利用者が300人以下だとマイナス4%だが、901人以上はプラス10%。資材の共同調達や組織集約が寄与する。介護事業に参入したSOMPOホールディングスの桜田謙悟社長も「事業者には一定の規模が必要」と説く。

 だが、現実には零細な社会福祉法人が多く、産業としての経営効率は低い。日本生産性本部によると、就業者1時間当たりの実質労働生産性(15年)は、介護を含む「保健衛生・社会事業」が2671円。製造業(5228円)の半分だ。

 日本の高齢化は世界最速で進む。社会保障給付費は団塊世代がすべて75歳以上になる25年度、150兆円近くになる。15年度の3割増しだ。高効率の企業の競争で生産性を高める。元気な高齢者を増やし、国の費用も抑える。これからアジア各国も高齢化する。生産性向上で難関を突破し、世界にそのノウハウを提供できれば、日本の新たな成長の源にもなりうる。

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